街の音色TOP
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チェンナイ(南インド)
ブエノスアイレス(アルゼンチン)
ウディネ(イタリア)
ボッハム(ドイツ)
ホルシュタイン(スイス)

トリエステ(イタリア)
チュービンゲン(ドイツ)
パンパネッラ(スペイン)
デュルンシュタイン(オーストリア)
トゥーン(スイス)

ユーリッヒ(ドイツ)
ブルーヒル(アメリカ)
トリノ(イタリア)
エリチェ(イタリア)
リヨン(フランス)

イラクリオン(ギリシャ)
サンタフェ(アメリカ)
グラスミア(イギリス)
ゴールドレイン(イタリア)
グラード(イタリア)

プラハ(チェコ)
クリミア半島(ウクライナ)
ヴェネチア(イタリア)
パドヴァ(イタリア)
バーデン・バーデン(ドイツ)

アバディーン(スコットランド)
トリヴァンドラム(インド)
バリローチェ(アルゼンチン)
リューベック(ドイツ)
バルデモサ(スペイン・マヨルカ島)

リューベック(ドイツ)
 
 

 

 

 

 

 
     

今にも 冷たい滴が落ちてきそうな空を気にしながら 船に乗り込む。夏のバカンスにはまだ早い町の朝は 人影もまばらで 店のシャッターも固く閉まったままだ。  朝市で買ったらしい パンと野菜を小脇に抱えて アパートの中へすべりこむ人の、 少し 乱暴に閉めたドアの音が 朝の静けさを 大きく揺らした。
 ハンザ同盟の中心都市であった 古都リューベック、二重の運河に囲まれた小さい町は 厚い雲に覆われた 暗い朝を迎えていた。けだるそうなエンジン音を響かせながら 船は 町の形を切り取るように流れる運河を 進んでいく。 頭の上を 大小のアーチがかすめ、大きな水の輪が 橋げたに 小さな波となって ぶつかり 去って行った。 うっそうとした木々の下を、名もない小さな花の間を切り開くように ボートハウスが並び、バカンスに訪れる主を待っている。
 そのオルガンの音色が バッハをも魅了したという マリエン教会の塔が 緑の間に 見え隠れしながら 近づいてくる頃、 岸辺のカフェには パラソルが立ちはじめ、うっすらと 地面にできた影が 一気に空気を緩めた。雲の間から こぼれおちてきた光を拾いながら 船は キラキラと輝きはじめた水面(みずも)を進む。 閑散としていた桟橋には ちょっと 寒そうに 首をすくめた人々が たよりなげな初夏の太陽の陽を背に、小さな船旅を待っていた。



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