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パンパネッラ(スペイン)
 
 

 

 

 

 

 
※写真はイメージです

 突然現れた山羊の群れに 行く手を阻まれて、私は照りつける光の中に 立ち往生してしまった。 四方をふさがれて 抜け出すすべもないまま 照れ隠しのように空を見上げる。家々の白い壁と深い空の青、褐色の土、真上の太陽は すべてものから影さえもうばって 隠れる場所はひとつもない。
 グラナダから 白い村をいくつも越えてたどりついた、スペインで一番美しいといわれる村 パンパネッラ。 100年前も100年後も 多分 同じ姿をしているにちがいない静かな村は 遠くから来た何人かの異国人によっても 空気をみだすことなく、昨日と同じ時を過ごしている。 草を求めて ゆっくりと移動していった一団から ようやく自由を返してもらい、少しでも太陽から身を隠そうと 民家の塀に近寄って歩いた。 わずかな日陰から見るまぶしい世界は 安らぎを与えてくれ 心地よい。
 外に出した椅子に座って 編物をしている老人に誘われるように 小さなみやげ物店を覗いてみると、空と同じ色の陶器が 山のように積んであった。 50年前からそこにあった物だと言われても驚かないだろうと思われるほど ほこりをかぶっているものもあったが、もうニ度と来ることはない小さな村の旅の記念に 私は一番手前の皿を一枚 手にとった。 ‘私は 今日 何番目のお客?’と 聞きたかったが、その答えはもうわかっているような気がして、老人が丁寧に包んでいる間の、日常の生活ではイライラするような時間の流れを楽しむことに専念した。
 時間がかかったわりにはそっけない包みを受けとって また、光の中へ出て行く。 同じ太陽の国でも 乾いた土の匂いがするイタリアに比べ、スペインは湿った、むせかえるような息苦しさを感じることがある。 肌にまとわりつくような 少し重い空気や時の流れが、人々を情熱的な踊りの舞台へいざなうのだろうか。
 光と影の巨匠たち、灼熱の太陽が地に沈むころ、彼らの時間はやってくる。



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