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トリエステ(イタリア)
 
 

 

 

 

 

 

 スロベニアとクロアチアの国境に程近い、イタリアの小さな港町トリエステ。 中世以来、オーストリア領となり、海のないオーストリア唯一の港として繁栄をきわめたこの町も 1919年イタリアに返還されてからは経済的に行き詰まり、小高い丘と美しい湾に囲まれたその姿は 多くの犠牲を払った解放運動の記憶とともに、イタリアの魂の深い部分へ沈みつつある。
 アドリア海の深い青を背負って、乾いた石畳の急坂を幾度となく登りながら その人が綴った場所を探して 夏の何日かを過ごした。太陽のせいだけではない息苦しさと、安全な巣穴を見つけたような居心地のよさを同時に感じながら、彼の精神が生きる場所はここしかないのだと、この町の空気から詩を切り離して持ち帰ることは不可能なのだと気付いた。
 モンターレと並んで20世紀最大の詩人といわれる ウンベルト・サバは このトリエステに生まれ、サン・ニコロ街にある小さな書店の古い本に埋もれるように その生涯を送った。 ウィーンとフィレンツェの文化が入り混じる町で ドイツ語を話しても イタリア人気質を捨てることなく、祖国の解放と自由を願い続けた彼らの心の底にあるもの、すなわち強い民族性が詩の骨格となっている。 溢れ出る思いを巧みにフレーズで区切り、リズムをきざみ、一音たりとも無駄を許さず、物語はしだいに虚構化されていく。
 長い沈黙のあとで ため息まじりに吐き出された断片に、突き放された衝撃と、息をのむ旋律の美しさと、包み込まれるぬくもりを与えてくれるサバ。 控えめな語り口から その奥に隠された無限大の世界を見るとき、置かれた環境がどうであれ、彼の魂が限りなく自由であったことを確信する。



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