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ブエノスアイレス(アルゼンチン)
ウディネ(イタリア)
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トリエステ(イタリア)
チュービンゲン(ドイツ)
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ユーリッヒ(ドイツ)
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トリヴァンドラム(インド)
バリローチェ(アルゼンチン)
リューベック(ドイツ)
バルデモサ(スペイン・マヨルカ島)

クリミア半島(ウクライナ)
 
 

 

 

 

 

 

 舞い降りてきたカモメに少し驚いて 身体を固くする。ゆっくりと羽をたたむ姿は優雅で、人の気配を感じたら すぐ飛び立ってしまうのではないか、とそのまま しばらく動けなくなった。こんなに大きな鳥だったのかそのしなやかな体の線と野生ならではのたくましさは 目の前の雄大な海原にふさわしい。音をたてないように カモメの横に上半身を滑り込ませ、その小さな瞳を覗きこみながら静かに足を移動した。ゆっくりと大きく息を吸い込み、肩を揺らさないように ゆっくりと息を吐く。鳥は頭を動かさず、かすかな まばたきだけ1回、2回、すぐそばに立って自分を見つめている人間がいることに気付かないのか、気にしないのか、いつまでも 光る海の夕暮れを眺めている。ウクライナ、クリミア半島、黒海をのぞむこの地は かつてのサナトリウム、ロシアとウクライナ両国で管理されていて、滞在するには 両方の国の許可が必要になる。 領土をめぐっての争いはどこにでもあるが、目の前にいる美しい鳥には そんなことは一切関係ない。羽を広げて風に乗り、気流のままに飛び続け、運命を道連れに 自由を謳歌する。今まで 何を見、これから どんな世界に遭遇するのだろうか。わずかな時間、同じ目線を共有したくて カモメの横顔に そっと近づいてみる。今にも くちばしが触れそうな瞬間、ふと強い風が吹き、その体は さらわれるように 海の上へ飛び出してしまった。あっという間に見えなくなった小さい影のあとには しだいに大きくなっていく 夕闇の海が広がっていた。



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