街の音色TOP
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チェンナイ(南インド)
ブエノスアイレス(アルゼンチン)
ウディネ(イタリア)
ボッハム(ドイツ)
ホルシュタイン(スイス)

トリエステ(イタリア)
チュービンゲン(ドイツ)
パンパネッラ(スペイン)
デュルンシュタイン(オーストリア)
トゥーン(スイス)

ユーリッヒ(ドイツ)
ブルーヒル(アメリカ)
トリノ(イタリア)
エリチェ(イタリア)
リヨン(フランス)

イラクリオン(ギリシャ)
サンタフェ(アメリカ)
グラスミア(イギリス)
ゴールドレイン(イタリア)
グラード(イタリア)

プラハ(チェコ)
クリミア半島(ウクライナ)
ヴェネチア(イタリア)
パドヴァ(イタリア)
バーデン・バーデン(ドイツ)

アバディーン(スコットランド)
トリヴァンドラム(インド)
バリローチェ(アルゼンチン)
リューベック(ドイツ)
バルデモサ(スペイン・マヨルカ島)

パドヴァ(イタリア)
 
 

 

 

 

 

 

「果物市場」に並ぶ屋台の、陽気なシニョーレの声を背に まぶしい光から抜け出すと、そこには 静寂と、ひんやりした空気に満ちた 細い路地が待っていた。 午前中の仕事を終えて シャッターを下ろし始めた店先に まだらの猫が ゆったりと寝そべって 目を閉じている。 たむろする学生の おしゃべりの声が、曲がりくねった道のあちこちに当たって、話の断片が 時折、大きく あたりに響き渡る。
歩くたびに 石畳に擦れる 砂のジャリジャリした音が 耳障りで ふと立ち止まり、道にはみだして置かれた 石造りの花壇にもたれるように 腰をおろした。
柱廊に縁どられた 緩やかな路地裏は、昼下がりの静けさが 少しずつ 濃くなって、真上にたどりついた太陽が 支配する時間になろうとしていた。
ヴェネチア近郊の街、パドヴァ、都会的な洗練さと 大学町らしい活気、繁栄の証を残す建物に囲まれた界隈も、ひとつ路地を曲がれば 時が止まったように 孤独が漂う。
角の向こうには 大きな通りがあって、にぎやかなカフェから エスプレッソと 甘いドルチェの入り混じった匂いが流れてきて、そこには 多くの人の温もりがあることを 知らせてくれる。
絵葉書を一枚書くあいだに、建物に隠れていた太陽が顔を出し、花壇のしおれかけた花を 照らし始めた。 持っていた残りの水をかけてやり、静かで 小さな時間に別れを告げた。



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