街の音色TOP
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ブエノスアイレス(アルゼンチン)
ウディネ(イタリア)
ボッハム(ドイツ)
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トリエステ(イタリア)
チュービンゲン(ドイツ)
パンパネッラ(スペイン)
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サンタフェ(アメリカ)
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グラード(イタリア)

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クリミア半島(ウクライナ)
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パドヴァ(イタリア)
バーデン・バーデン(ドイツ)

アバディーン(スコットランド)
トリヴァンドラム(インド)
バリローチェ(アルゼンチン)
リューベック(ドイツ)
バルデモサ(スペイン・マヨルカ島)

トリノ(イタリア)
 
 

 

 

 

 

 
※写真はイメージです

 夜の戸張がおりる一瞬前の時刻、街のあちこちから 教会の鐘の音が折り重なるように聞こえる。 山の上のヴィラから トリノの街並みを見ることはできなくても その響きは 石の壁を伝わり、少し湿った空気に包まれ、やわらかい音となってあがってくる。 心地よい風が その音を街の隅々まで運び、町中の誰もが 熱い夏の一日を振り返って ほっと息をつく。
 乾いた大気に 細かい砂ぼこりが舞いあがり、夕日があたって キラキラと光る様は美しく、この時間の密かな楽しみとなる。 ヴィラのベランダから 今朝 くっきり見えていたアルプスの山々は 茜色の雲に隠れてしまったが、さわやかさとは対照的な 少しけだるい風景が 夏の夕刻にふさわしい。
 忙しかった一日をねぎらう やさしい時間は 来るべき夜の、少し引き締まった湿度の中に たたみこまれていき、鐘の残響は 褐色の土にしみ込んで 息を潜め、明日が来るのを待っている。
 こんな たたずまいが とても好きだ。 昼と夜の間で 居場所のない時の断片が 人々の心の中にあって、街中をめぐる鐘の音のように、響きを変えてさまよう。
今日 あったことが こころの奥深くにしみ込んでしまうまでの 僅かな猶予の時間、漂ううちに 悲しいことも 少しだけ優しい形になって 心の底へ落ちていく。
 石畳を撫でてあがってくる風が 冷たくなり、夕日が山の陰へ消えていくのを見て、大きく ひとつ息を吸い込む。 街の灯りが ぼんやり 細い路地裏を照らすと、トリノの長い夏の夜が始まるのだ。



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