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ウディネ(イタリア)
急な坂道が曲がるあたり、ひんやりとつめたい石の上に腰をおろす。柱によりかかり、坂の下に体を向け 足をのばすと、下からあがってくる少し湿った空気と 上からおりてくる さわやかな風の交差点にいるようで 心地よい。
坂の上の礼拝堂に行くのだろうか、ゆっくりと のぼってくる人影が柱の影に消え、しばらくして また 思い出したように さらにゆっくりと歩みを進めていく。
イタリア屈指の美しい広場といわれるリベルタ広場から ポッラーニ門をくぐって見上げると ゴシック・ベネチアン様式の柱廊が、丘の上のカステッロ(城)まで続く。ベネチアとトリエステを結ぶ山側の路線、そのちょうど中間あたりに位置する美しい古都、ウディネは 13世紀にカトリック教会の大司教座が拠を定めて以来、産業・文化・芸術の面で フリウリ地方の発展の中心となってきた。短い間ではあったものの、オーストリア領となっていたせいか、1km四方足らずの中心部には 華やかな装飾が施された建物が目立つ。
観光地とは無縁の、それでも時々あがってくる数少ない人影は ゆるやかなカーブを曲がり、カステッロの建つ丘の向こう側に消えていく。これといった音がきこえてこない柱廊のくぼみでは 石畳にこだまするその足音までが 回廊の柱から背中に伝わってくるようだ。
時折落ちてくる細かい雨粒が 石の上の白い砂を一瞬濃い色に変化させるものの、それが重さを持つまでには至らず、さらさらと不安定なまま、再び白くなっていく。
ゆるやかでも 曲がり角の内側は 先の気配が感じられず、ふいに飛び出してくる物影に驚くことがある。臆病だな、と思いながらも 歩くには遠回りだけれど 来た道と これから上っていく両方の道が見渡せるこの場所が気に入って、小雨が何度か 降ったりやんだりする間を過ごした。
その時期にしては冷たい空気の匂いと 憂鬱そうな空の色、そして やわらかい雨の音、本当なら ほんの少し不満なはずの天気も この街には よく似合っていて、今朝 もったいないと思いつつもあとにしてきたアドリア海の青い空と海をおしむ気持ちは いつのまにか消えていた。
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