街の音色TOP
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チェンナイ(南インド)
ブエノスアイレス(アルゼンチン)
ウディネ(イタリア)
ボッハム(ドイツ)
ホルシュタイン(スイス)

トリエステ(イタリア)
チュービンゲン(ドイツ)
パンパネッラ(スペイン)
デュルンシュタイン(オーストリア)
トゥーン(スイス)

ユーリッヒ(ドイツ)
ブルーヒル(アメリカ)
トリノ(イタリア)
エリチェ(イタリア)
リヨン(フランス)

イラクリオン(ギリシャ)
サンタフェ(アメリカ)
グラスミア(イギリス)
ゴールドレイン(イタリア)
グラード(イタリア)

プラハ(チェコ)
クリミア半島(ウクライナ)
ヴェネチア(イタリア)
パドヴァ(イタリア)
バーデン・バーデン(ドイツ)

アバディーン(スコットランド)
トリヴァンドラム(インド)
バリローチェ(アルゼンチン)
リューベック(ドイツ)
バルデモサ(スペイン・マヨルカ島)

チェンナイ(南インド)
 
 

 

 

 

 

 

  その時も同じような風が吹いていたのだろうか。 さらさらとした砂が素足にまとわりつく。容赦なく照りつける太陽から逃げるように 巨大な岩の建造物の陰に身を隠すと、背後で風の動く気配とともに 足元の砂が同じ方向へ流されていく。ひんやりと冷たい壁に手をあててみる。はるかなときを この風に吹かれてたたずんでいたのかと思うと、意識の中から色が消え、体中の感覚が砂の中に埋もれてしまうような気がする。音はなく、目の前に広がるベンガル湾から吹く風が、波を揺らすかすかな振動のようなささやきだけが 体を通り抜けていく。
 7世紀の昔に 信仰という名のもとに 志をともにした人々によって、ひと彫り ひと彫り祈りをこめて造られた石の海岸寺院。自然条件の厳しい海を臨む砂浜を あえて場所に選び、魂の声を刻むことによって 少しでも神に近づこうとしたのだろうか。インドの踊りには 目の動き、指の形、足の運びなどに 細かく意味がこめられている。その一つ一つを理解し、表現することは信仰の厚さと芸術性の高さに通じる。本来、音楽も踊りも 神にささげるものであり、祭りごとを行なうためのもの、神との対話であるはずなのに、我々にとって それを意識することは難しい。
 ひときわ強い風に押されるように 体の向きを変えると、深い彫刻がほどこされた塔の間から 太陽の光がさし、目の中には次第に空の青さがもどってくる。ベンガル湾から吹く風にさらされながら、今にも崩れそうな砂地の上にあっても 人々の信仰の記憶は その固い岩のように 決して風化することはない。



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