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トリヴァンドラム(インド)
バリローチェ(アルゼンチン)
リューベック(ドイツ)
バルデモサ(スペイン・マヨルカ島)

トリヴァンドラム(インド)
 
 

 

 

 

 

 
     

暑い一日になりそうな予感とともに 明るくなったばかりの海へ 静かに漕ぎ出す。 木をくりぬいただけの 粗末な舟、腰を下ろそうにも 乾いた場所はなく、足元には 水が溜まっている。 モーターはない。 鳥たちを驚かせないように 舟は 船頭が差す長い木の棒に押され、水に埋もれるように すべっていく。 海面から わずかに 取り残された陸地には 早朝の漁を終えた船が並び、漁師たちが のんびりと 網の手入れをしている。 まだ 早朝だというのに、チリチリと 肌を焼く太陽が 水面に反射して 塩の匂いのする大気へ 屈折した。
 アラビア海に面した 南インド ケララ州 トリヴァンドラム、中州を縫うように 舟は 湿地帯を マンブローブの林へ 迷い込んでいく。 
生い茂った木々は 強い日差しを遮り、深い緑に覆われた水は 舟の前を 柔らかいうねりとなって 先導する。
時間は あってないようなものだ。 ここでは 時計の針に追われることは 何の意味もなく、すべての生き物は 神の意思によって 動かされている。 鳥の羽ばたきさえ 聞こえる静寂の中では 大声を出す必要もない。 誰かより上へ、何かより速く生きることは 無意味なのだ。
 灼熱の一日は アラビア海に沈む夕日で終わる。 燃えるような赤い光が 雲とヤシの木をかすめて 海へ落ちていく。
水浴びをしていた若者が一人、全身で 太陽を抱いているようにみえた。 黒いシルエットが 白い波の間に 吸いこまれて消え、あとには 濃い闇が 覆いかぶさってくる。
海からあがってくる 生温かい風と 人工的な明かりが 官能的な インドの夜の始まりを 告げていた。



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