街の音色TOP
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ブエノスアイレス(アルゼンチン)
ウディネ(イタリア)
ボッハム(ドイツ)
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トリエステ(イタリア)
チュービンゲン(ドイツ)
パンパネッラ(スペイン)
デュルンシュタイン(オーストリア)
トゥーン(スイス)

ユーリッヒ(ドイツ)
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クリミア半島(ウクライナ)
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パドヴァ(イタリア)
バーデン・バーデン(ドイツ)

アバディーン(スコットランド)
トリヴァンドラム(インド)
バリローチェ(アルゼンチン)
リューベック(ドイツ)
バルデモサ(スペイン・マヨルカ島)

バリローチェ(アルゼンチン)
 
 

 

 

 

 

 
     

ドアをあけると 古びた木の窓枠の中に その風景があった。  ほんの小さな断片でしかない 一枚の絵は、その先にある 色や匂いを想像させる時間を たっぷり与えてくれそうだ。 勢いよく 窓を開けて バルコニーへ出る前に、しばし 壁にもたれて 時を待つ。 気の遠くなるような 時間の流れは 突然に切り取られ、小さな音をたてて 記憶の淵に落ちていく。  大胆な構図を前に うろたえた末の、無造作な切り口が 取るに足らない 自分の存在と重なって見えた。
 南米、アルゼンチン パタゴニアの北の端 バリローチェ、地球の裏側は 初夏の風が木々を揺らし、真夏でも消えない雪渓に 太陽の光が反射する。
山の間をぬって どこまでも続く湖の上は 強い陽ざしとは 不釣り合いな 冷たい空気が流れていた。 水際に しゃがみこんで 入れた指先から 遠くで 崩れた氷河の音が伝わってくる。 はるかな距離を 旅してきた音は 痛いくらいの冷たさとともに 大きな響きの輪を作る。
 夜は 星の雨が降った。  雨音は 大地にしみ込み、やがて 湖に流れていくだろう。
風が抜けて 波がやみ、静かになった水面から やわらかい滴を そっとすくう。
両手の中で 優しい時間が 動きだした。



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