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リューベック(ドイツ)
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イラクリオン(ギリシャ)
 
 

 

 

 

 

 

  単純な青ではない。海に向かって建つ要塞の壁にあいた窓から 地平線に広がるエーゲ海を見たとき、"生き物は 海から来て 海へ帰るのだ"と思った。 だから 海は複雑な色をしている。 まるで 自然の額縁のような窓は 海を無造作に四角く切り取り、覗き込む者をとらえて離さない。 沖を通る船や 小さな漁船、海面すれすれに飛ぶ鳥、太陽に反射して光る波、額の中の絵は 静かな叫び声をあげながら 何を言おうとしているのだろうか。 吸い込まれそうな海の色をみているうち、体中の血が青くなるような気がして、心まで青く染まったまま、動けなくなった。 潮の匂いが 舞い上がる砂といっしょに吹き抜けていく。 崩れそうな階段ごしに 風の音を聞きながら、固く閉じた目の奥で 強い太陽の光と海の色が交差した。
クレタ島イラクリオン、入り組んだ細い道は 必ずあの海に突き当たる。 いつまでも追いかけてくる青が 路地裏の市場に 海からの贈り物を運んでいた。 満ち潮で生まれるもの、次の引き潮で帰っていくもの、その大きな流れの中で 生き物は 額縁の中に 小さな世界を作っている。
出発の朝は美しい夜明けの海を見た。 雲の間から 一直線の光が解き放たれて、海は一瞬でオレンジ色に満たされていく。 私の中の青は消え、もう追いかけてはこなかった。



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