街の音色TOP
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ユーリッヒ(ドイツ)
 
 

 

 

 

 

 
※写真はイメージです

 栗の実が 肩をかすめて一つ、葉についた雨の雫といっしょに 落ちてきた。 明け方の激しい雷雨で叩き落されたのだろう、足元には 枝についたままの実がころがっていて 落ち葉を踏みしめると ゴム底の靴に 毬がくっついてくる。 ぐっしょり濡れたベンチを、どう考えても頼りない 薄いハンカチで ぬぐっては絞り、しぼっては拭く作業を繰り返す。 木のベンチは 水分をいっぱい含んでいて 乾くはずもなく、あきらめて 持っていた上着を敷いて腰を下ろすことにする。 冷たい感触が伝わってきて このままここにいたら 冷え切ってしまうのではないか、と 少し早めにホテルを出てきてしまったことを後悔した。
 風が吹いて 今度はいくつもの実が バラバラと落ちてきた。 うまくよけたつもりが、見事に命中して 思わず立ち上がり 大きな木を見上げてみる。
のびのびと枝が広がり、沢山の葉をつけ、夏の間は ベンチに座る人々に ちょうど心地よい木陰を作っていたのだろう。 ベンチは木の下に すっぽりおさまるように置かれており、一人で押してみたところで 動く気配もない。 どうやら 今日はここで 栗の実の攻撃にさらされながら過ごすほかはなさそうだ、と本を広げると、今度は 隣のベンチが騒がしくなり、散歩の途中らしき老婦人が私に何事かつぶやくと 手を広げて退散してしまった。
 ボン近郊にある街ユーリッヒ、小さな教会の鐘の音が街中を包み、人々は その音色に合わせ、豊かで自然な暮らしを営んでいる。 もう二度とくることはないだろう、この街の中心にある公園は 私のあと数時間の滞在を きっと 静かで穏やかな印象深いものにしてくれるはずだ。
 城跡に残る朽ちかけた門の向こう側に ほんの少し青空が見えてきて それは 大きな栗の木の方へ 広がってくるような気がした。



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