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ヴェネチア(イタリア)
 
 

 

 

 

 

 

人の流れを ふいに避けて 小さな運河沿いの道に すべりこむ。
急に温度が下がったように思うのは せまい石壁の冷たさのせいだろうか。
ゴンドラの客寄せの声や 人の笑い声、靴音さえも 耳から消えて 見上げた細長く青い空に 全ての音が 吸い込まれてしまったようだ。
大きな道なら 引き返すのに、時々 運河の向こうへ連れて行ってくれる 小さい橋は、私に後ろを振り向かせなかった。
傍目には よく道を知っていて 迷いなく 軽やかに見えたかもしれないが、どこへ向かっているか わからない私の足は 不安な心とは 裏腹に 先の見えない通りへと 迷い込んでいく。
夕暮れのヴェネチア、中途半端に 時を告げる教会の鐘が あちこちで鳴り響き、全てのものは 何かに追われるように 一日の終わりへ向かう。
またひとつ、空気が冷たくなった。 見えない太陽が 海の向こうへ落ちていったのだろう。 もう 帰らなくちゃ、自分の足に呼びかけてみる。 それでも なぜか、後ろを振り向くのが恐くて 足が止まらない。
小さな よろず戸の向こうに こちらからは見えない無数の目があるようで、視線を落としたまま ひたすら 運河を渡り歩く。 動いているのは 時折 吹き抜ける風に キラキラと光る水、驚くほどのはやさで 傾いていく影、そして かすかに揺れる、古びたカーテン。
行き止まりになった 壁の前を リュックを背負った観光客が 横切るのを 目の端で捉えたとき、小さな冒険は終わりに近づいた。 どこからともなく 溢れ出した人の群れに いつしか飲み込まれでいく。
サン・マルコ広場の 夜になっても消えない 生暖かい匂いが すぐそこまで 流れていた。



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